気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム

「キネマ旬報ベスト・テン」 文化映画1位に「人生フルーツ」、「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名はカメジロー」もランクイン

 映画雑誌「キネマ旬報」が発表している「キネマ旬報ベスト・テン」。読者ベスト・テン(2月2日発表)を除く各賞、およびベスト・テンが昨日1月11日に確定しました。昨年に続き、当コーナーでは「文化映画ベスト・テン」に注目。1位は予想にたがわず、東海テレビの大ヒットドキュメンタリー「人生フルーツ」が選ばれました。もはや、ここでは説明不要かと思いますが、建築家、津端修一さんと、妻の英子さん、二人の暮らし、ライフスタイルが共感を呼び、昨年お正月の公開から今なお上映が続いています。ドキュメンタリー映画としては空前の大ヒットです。昨年末に日本映画専門チャンネルでテレビ初放送。さらに年が明け1月2日に、東海テレビで待望の地上波初放送が実現しました。今回の文化映画ベスト・テン1位のニュースで、さらにロングラン上映の後押しになることでしょう。「人生フルーツ」ブームはまだまだ続きそうです。

 7位にはTBSが制作したドキュメンタリー「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名はカメジロー」がランクイン。「筑紫哲也NEWS23」のキャスターを長らく務めた同局の佐古忠彦氏が初監督を務め、沖縄の不屈の政治家・瀬長亀次郎の姿を描きました。2016年に放送した「米軍が最も恐れた男 ~あなたはカメジローを知っていますか?」を基に、佐古監督が沖縄に足しげく通って追加取材し、映画化を実現しました。ここ数年、ローカル局によってドキュメンタリー番組の映画化がされるなかでの、東京キー局待望の作品。スピンオフ番組の放送や佐古監督自ら番組出演でPRするなど公開直後から話題になる一方、TBSをはじめ系列局が地道に取材、蓄積してきた素材が存分に生かされ、JNN系列の底力を感じさせました。カメジローの生き様から沖縄の歴史を描いていますが、佐古監督は「決して昔話ではなく、今につながっている」と強調。今、この時代にこそ伝えるべき内容であることを実直に訴えてきました。

 そして、沖縄といえばもう1作。2位にランクした「標的の島 風(かじ)かたか」も、元QABキャスターの三上智恵監督作品。QAB在籍当時に制作した「標的の村」(2012年)は、同局の番組を映画化したもので、「2013年 第87回キネマ旬報ベスト・テン」文化映画1位に輝くなど、番組・映画ともに数々の賞を受けるなど高く評価されました。その後フリーに転じた三上監督にとっては、「戦場ぬ止み(いくさばぬとぅどぅみ)」(2015年)に続き、これで3作目の映画です。辺野古、高江、石垣、宮古と、基地問題の最前線をとおして沖縄の今を描いています。関連著書も数々出すなどジャーナリストとしても活動する三上監督渾身の作品は、見る人に、怒り、悲しみ、むなしさ、そして明るさと、いろいろな感情が入り交ざって訴えかけます。過去と現在から沖縄を描いた両作品を見れば、沖縄が抱える問題が決して現地だけでのものでなく、日本が直面する問題だということが理解できるはずです。

 このほか、8位「笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ」、9位「まなぶ 通信制中学60年の空白を越えて」はテレビ局が作った映画ではありませんが、かつて本欄でも紹介していた作品なので、ランクインされていたことに喜ばしい気持ちになりました。「笑う101歳 ――」は、国内初の女性報道写真家・笹本恒子さんと孤高のジャーナリスト・むのたけじさん、100歳を超えてなお、現役にこだわったお二方の生き方、考え方に迫っています。特にむのたけじさんは、地元秋田ではもちろんこと、幾度となく番組で紹介され、2015年放送のNHK「ETV特集『むのたけじ 100歳の不屈伝説のジャーナリスト 次世代への遺言』」はその象徴的な番組でしょう。2016年に他界されましたが、映画では死の直前まで早稲田大学の学生を前に熱弁を奮う姿が印象的です。また、「まなぶ ――」は、教壇にも立ったことのある太田直子監督が、2014年にこちらも「ETV特集『学ぶことの意味を通して~神田一橋・通信制中学の歳月』」を原型に、さらに取材を重ねて映画化したもの。戦争や貧困によって義務教育を受けられなかった人の存在を伝えるばかりでなく、70歳を超えた人々の純粋に学びたいという気持ちに心が揺さぶられる内容です。

 なお、これらの作品は劇場公開以外に、全国で自主上映会が度々開催されています。近くで観覧できる機会もあるかもしれませんので、公式サイトなどでこまめに確認してみることをお勧めします。

[2017年 第91回キネマ旬報ベスト・テン]
【文化映画ベスト・テン】
1位 「人生フルーツ」
2位 「標的の島 風(かじ)かたか」
3位 「やさしくなあに ~奈緒ちゃんと家族の35年~」
4位 「ウォーナーの謎のリスト」
5位 「谺雄二 ハンセン病とともに生きる 熊笹の尾根の生涯」
6位 「沈黙 立ち上がる慰安婦」
7位 「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」
8位 「笑う101歳×2 笹本恒子 むのたけじ」
9位 「まなぶ 通信制中学60年の空白を越えて」
10位 「廻り神楽」


文化映画ベスト・テン1位
「人生フルーツ」
■2016年 東海テレビ  ナレーション/樹木希林  監督/伏原健之  プロデューサー/阿武野勝彦  (C)東海テレビ


*名古屋近郊の高蔵寺ニュータウンの一隅で、雑木林に囲まれ自給自足に近い生活を営む90歳の建築家の津端修一氏と87歳の妻、英子さんの日常を見つめたドキュメンタリー。現代の桃源郷のようなふたりの暮らしぶりに魅せられ、延べ22万人の観客を動員した。
文化映画ベスト・テン7位
「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名はカメジロー」
■2017年 TBSテレビ  語り/山根基世 大杉漣  監督/佐古忠彦  エグゼクティブプロデューサー/藤井和史  プロデューサー/大友淳 秋山浩之  (C)TBSテレビ

*終戦後、沖縄で民衆の先頭に立ち、演説会を開けば毎回何万人もの人を集めた瀬長亀次郎。団結して立ち向かったのは、戦後沖縄を占領したアメリカ軍の圧政。「不屈」の精神で、祖国復帰へ向けて民衆をリードした男の知られざる実像と信念を貫いた抵抗の人生を描く。
関連リンク
2017年ドキュメンタリー歳時記【後編】 東海テレビ「私のドキュメンタリー10の旅」で「人生フルーツ」待望の地上波初放送!
https://www.tvguide.or.jp/column/kimagure/20171229_01.html
TBS「報道の魂」から「不屈」の男・瀬長亀次郎の生き様を描いた「米軍(アメリカ)が最も恐れた男~」を映画化!
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。
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