気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム

第43回「放送文化基金賞」発表! ドキュメンタリー最優秀賞は「NHKスペシャル ある文民警察官の死」

 過去1年間の放送の中から、視聴者に感銘を与え放送文化の発展と向上に寄与した優れた番組や個人・グループに贈られる放送文化基金賞。第43回「放送文化基金賞」(平成28年4月から29年3月)の表彰対象が先週発表されました。賞の構成は、大きく「番組部門」と「個人・グループ部門」に分かれます。番組部門はテレビドキュメンタリー番組、テレビドラマ番組、テレビエンターテインメント番組、ラジオ番組にそれぞれ最優秀賞、優秀賞、奨励賞が、さらに個人に対しても、演技賞、演出賞、制作賞、映像賞、企画賞が贈られます。また、個人・グループ部門は、放送文化と放送技術が対象となります(各賞は下記一覧を参照)。表彰式は7月4日(火)、都内にて行われます。そこで今回は、ドキュメンタリー関連の主な受賞について紹介します。

 「番組部門」テレビドキュメンタリー番組の最優秀賞は、昨年8月13日に放送された「NHKスペシャル ある文民警察官の死~カンボジアPKO23年目の告白~」(メイン写真)に。1993年5月、日本が初めて本格的に参加したカンボジアでのPKO(国連平和維持活動)で、現地に派遣されていた日本人警察官が武装勢力に襲撃され命を落としました。その襲撃事件から23年間、閉ざされたままのカンボジアPKOの内実。NHK大阪放送局は、これまで口を閉ざしてきた隊員たちの証言と未公開の映像を入手。文民警察官の23年目の告白から日本の安全保障政策問題を再考した番組です。海外に派遣されている自衛隊の武器使用の有無が問われる現在の課題と深く重なり合うと高く評価されての受賞です。

 優秀賞には、チューリップテレビ「はりぼて 腐敗議会と記者たちの攻防」(12月30日放送)が選ばれました。前回の当コーナーで紹介した富山市議会議員による政務活動費の不正受給に関する同局の一連の報道活動、その経緯をまとめたドキュメンタリー番組です。地方局ならではの密着取材がいきいきと描かれていることが評価されました。

 奨励賞は3作品。1作目は、NHK熊本放送局、福岡放送局が制作した「ETV特集 水俣病 魂の声を聞く~公式確認から60年~」(5月28日放送)。昨年5月1日、水俣病の公式確認から60年。初期の患者の肉声を記録していた貴重な録音テープほか、新たな証言を集め水俣病が残した真実をあらためて描いています。これまでにも水俣病をテーマにした幾多の作品が評価されてきたが、水俣病発見60周年を機に公害の悲惨があらためて問われている。ラストカットでかつての幼い子どもが五十数年にわたって悲惨な痙攣(けいれん)症状を示している姿に涙せざるを得ないと、選考理由の中でも感極まる作品であることが述べられています。長年、水俣病問題に取り組んできた地元のNHKに在籍する吉崎健ディレクター渾身の作品。水俣病は過去の話ではなく現在進行であること強く訴えています。(吉崎さんについては機会をあらたに紹介したいと思います)。

 2作目はテレビ愛媛「じいちゃんの棚田」(9月12日放送)で、5月に同番組が農業ジャーナリスト賞を受賞した際に当コーナーでも紹介した番組です。棚田の四季とそこに暮らす“じいちゃん”を4年にわたって取材。高齢・過疎に直面する小さな集落を見つめています。これほど心が温まり、限りなく美しいと感じる作品も珍しいと、選考理由の中でも絶賛されています。

 3作目はNHK広島放送局制作の「NHKスペシャル 決断なき原爆投下 米大統領 71年目の真実」 (8月6日放送)。広島・長崎への原爆投下は、トルーマン大統領が明確な意思のもとに決定した意義ある作戦だったというのがアメリカでの一般的な定説。しかし、これに疑問の声があると、各地に散逸していた機密資料を徹底検証し、その真実に迫った番組です。昨年のオバマ前大統領の広島訪問を契機にトルーマン大統領の判断、原爆製造を主導した軍部のありようを問うたもの。長年にわたり原爆の悲劇を追究してきた制作スタッフの取り組みそのものも高く評価されています。

 これらテレビドキュメンタリー番組以外にも、下記一覧のとおり、テレビドラマ番組、テレビエンターテインメント番組の中に「NHKスペシャル『未解決事件』File.5 ロッキード事件」や「ETV特集 15歳 私たちが見つけたもの~熊本地震3年3組の半年~」のようなドキュメンタリー要素の強い番組が選ばれていることが分かります。それだけ、ドキュメンタリー系作品に秀作が多いことを物語っています。さらに、「番組部門」の制作賞には、ジャーナリズム精神のあるべき姿を示したとしてドキュメンタリー番組優秀賞のチューリップテレビ「はりぼて 腐敗議会と記者たちの攻防」を手がけた五百旗頭(いおきべ)幸男アナウンサーが選ばれています。11年の記者生活を経て昨年4月からアナウンサーに転身した五百旗頭アナは、この番組の元になった夕方ローカルワイドニュース「ニュース6」のメインキャスターです。富山市議会議員の不正問題に自ら現場で取材し、そして自身の言葉で直接視聴者に伝えてきました。「はりぼて~」ではディレクターとして制作する立場での受賞となりました。

 このほか、「個人・グループ部門」放送文化枠では、東海テレビの阿武野勝彦プロデューサーが、優れたドキュメンタリー番組の制作、その多角的な展開と牽引という業績により選ばれました。全国放送の機会が少ない地方局制作のドキュメンタリー番組を映画化するパイオニアで、7年間で10作品を劇場公開し、好評を得てきたこと。その動きが刺激となって他の地方民放局も次々と映画に参入。さらには番組の書籍化にも取り組むなど、大胆に多角的に活躍してきたことが選考理由です。各地での劇場公開に合わせて、舞台挨拶やトークの場にも精力的に足を運び、ドキュメンタリー作品のいわば伝道師として全国を飛び回っていることなどもその評価に含まれているのだろうと推察します。こうした地道な活動が実り、今年1月に公開したプロデュース作映画「人生フルーツ」は、観客動員数が今月に入って14万人を突破。ドキュメンタリー映画としては空前のヒットで、今なお上映が続く異例のロングランとなっています。

 今回の放送文化基金賞は全体で277件の応募、推薦から選考されたもの。テレビドキュメンタリー番組は89件のエントリーがあったそうですが、表彰対象はいずれも地方で制作されたものというのが象徴的。あらためて全国各地に潜在的な取材力や制作力がひしめいていることを実感します。今後も、こうした地味ながらもクオリティーの高い番組を、そして地道な取材に真摯に取り組んでいる制作者の方々を紹介していければと思っています。

 なお、ドキュメンタリー番組最優秀賞の「NHKスペシャル ある文民警察官の死~カンボジアPKO23年目の告白~」は、「NHKスペシャル選」として、6月17日(土)にアンコール放送されます。まだご覧になっていない方は是非この機会に!

<第43回「放送文化基金賞」受賞一覧>
【番組部門】 テレビドキュメンタリー番組
□最優秀賞 NHK大阪放送局
「NHKスペシャル ある文民警察官の死~カンボジアPKO 23年目の告白~」

■平成28年8月13日放送
語り/広瀬修子 ディレクター/旗手啓介 松井大倫 新山賢治 制作統括/三村忠史

*6月17日(土) 午後9:00~9:50に「NHKスペシャル選」として放送

□優秀賞 チューリップテレビ「はりぼて 腐敗議会と記者たちの攻防」

■平成28年12月30日放送
ナレーション/山根基世  ディレクター/五百旗頭幸男 番組デスク/宮城克文 プロデューサー/中村成寿 制作統括/服部寿人

□奨励賞 NHK熊本放送局、NHK福岡放送局
「ETV特集 水俣病 魂の声を聞く~公式確認から60年~」

■平成28年5月28日放送
語り/上田早苗 ディレクター/吉崎健 プロデューサー/岩下宏之 制作統括/石津雅 福島広明 浦林竜太

□奨励賞 テレビ愛媛「じいちゃんの棚田」

■平成28年9月12日放送
ナレーション/名護谷希慧 ディレクター/友近晶二 プロデューサー/片上裕治

□奨励賞 NHK広島放送局

「NHKスペシャル 決断なき原爆投下 米大統領 71年目の真実」
■平成28年8月6日放送
語り/伊東敏恵 ディレクター/葛城豪 花井利彦 制作統括/高倉基也
【番組部門】 テレビドラマ番組

□最優秀賞 NHK
土曜ドラマ「トットてれび」
■平成28年4月30日(土)~6月18日(土) 全7回
*応募は第1回、第3回

□優秀賞 NHK
土曜ドラマ「夏目漱石の妻」
■平成28年9月24日(土)~10月15日(土)放送 全4回
*応募は第1回、第4回

□奨励賞 TBS
火曜ドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」
■平成28年10月11日(火)~12月20日(火)放送 全11回
*応募は第1回、第11回

□奨励賞 NHK
「NHKスペシャル『未解決事件』File.5 ロッキード事件」
■平成28年7月23日放送
【番組部門】 テレビエンターテインメント番組

□最優秀賞 かわうそ商会、NHKエンタープライズ、NHK
「ザ・プレミアム 寅さん、何考えていたの?渥美清・心の旅路」
■平成28年7月30日放送
□優秀賞 テレビ朝日
「古舘トーキングヒストリー~忠臣蔵、吉良邸討ち入り完全実況~」
■平成28年12月10日放送
□奨励賞 NHK札幌放送局、NHK旭川放送局
「天空のお花畑 大雪山“小さな賢者”の物語」
■平成28年10月10日放送
□奨励賞 NHK熊本放送局
「ETV特集 15歳 私たちが見つけたもの~熊本地震 3年3組の半年~」
■平成28年12月10日放送
【番組部門】 ラジオ番組

□最優秀賞 山口放送
「メロディーの向こうに~童謡・唱歌の世界~」
■平成29年3月26日放送
□優秀賞 NHK仙台放送局
「震災ラジオ特集『3.11若者たちは、いま』」
■平成29年3月11日放送
□奨励賞 信越放送
「SBCラジオスペシャル『受話器の向こうから~026-237-0555』」
  ■平成28年5月29日放送
【番組部門】※表彰番組を対象として、その番組に携わった個人に贈る賞

□演技賞  満島ひかり NHK 土曜ドラマ「トットてれび」
□演技賞  長谷川博己 NHK 土曜ドラマ「夏目漱石の妻」
□演出賞  柴田岳志 榎戸崇泰 NHK 土曜ドラマ「夏目漱石の妻」
□制作賞  五百旗頭幸男 チューリップテレビ「はりぼて 腐敗議会と記者たちの攻防」
□映像賞  鈴木友史 村井陽亮 若松元明 周東昭彦 NHK札幌放送局 NHK旭川放送局「天空のお花畑 大雪山“小さな賢者”の物語」
□企画賞  笠原公彦 信越放送「SBCラジオスペシャル『受話器の向こうから~026-237-0555』」
【個人・グループ部門】 放送文化

□宮﨑 賢(RSKプロビジョン カメラマン)
35年にわたるハンセン病強制隔離の実態についての継続映像報道
阿武野勝彦(東海テレビ放送 プロデューサー) 優れたドキュメンタリー番組の制作、その多角的な展開と牽引
□三宅民夫(NHK アナウンサー)
幅広い分野で卓越したアナウンス技術を発揮
□「テレビ寺子屋」制作スタッフ(テレビ静岡)
40年にわたり家庭教育について考える番組を制作

*このほか、【個人・グループ部門】放送技術、4案件が選ばれています
Y・I
株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。
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