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コラム

トータス松本「いだてん」河西三省アナウンサー役に「やれるかい!」と思わず突っ込む!?

 7月14日放送(第27回)の「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」(NHK総合ほか)では、金栗四三(中村勘九郎)が故郷・熊本に戻る決意をしました。一方、金メダル第一主義を掲げ、3年後にやって来るロサンゼルスオリンピックで水泳大国となるべく必勝プランを練り、前畑秀子(上白石萌歌)など若手を次々と発掘していったのが、第2部の主人公・田畑政治(阿部サダヲ)。第27回「替り目」というタイトルの通り、主人公の交代を感じさせる回でしたね。この回から登場し、1936年に開催されたベルリンオリンピックにおいて「前畑がんばれ!」の名ゼリフで一躍有名になるのが、アナウンサー・河西三省。彼を演じたトータス松本さんにお話を伺いました!

──「いだてん」出演のオファーを聞いた時の感想を教えてください。

「『いだてん』が発表されてから、すごく楽しみで絶対に見ようと思っていたんです。それと同時にキャストを見たら、『あれ? もしかしたら話くるんちゃうかな』と何の根拠もなく感じていました。上方漫才師や上方落語家の役柄が来たら面白いな、うれしいなと思っていたんです。だからオファーの話を聞いた時には『やったー! ほんまに来た!』と素直にうれしかったです。宮藤官九郎作品に出られる! 大河ドラマに出られる、やったことのない役柄をやらせてもらえるといううれしさがあって、気持ちが一気に押し寄せてきました」

──とてもうれしかったとのことですが、役柄が河西アナだと聞いた時はいかがでしたか?

「『やれるかい!』っていう気持ちと、『やれそうな気がする』という両方がありました。『やれるかい!』と思ったのは標準語やアナウンサーという部分で、『やれるかも』と思ったのは声の部分。声は手前みそですけど、歌を歌っているので強い声は持っていると自負していて。そこを望まれているんだったら『やれる!』と思いました」

──悩みながらも出演されることを決められたのですね。最初はどんなシーンを撮影されたのでしょう?

「河西が司会をしているラジオ番組に田畑や水泳チームの人たちを招いてインタビューをするというシーンで、最初のせりふは、『ラジオをお聞きの皆さん、こんにちは。河西三省です』だったけど、それがまったく言えなかった。何回も『こんにちは』を言い直して…。何が違うのかいまだにぼんやりとしか分からないですね(笑)。あと、(阿部扮する)田畑に話を振ったら、ぶわーっとまくし立てられて。『こういうテンションで来るんや』と。まくし立ててセリフも飛んでるのに、それでも止めないんです。アドリブをやっているつもりはないんやろうけど、確かこんな脈絡の話やったと無理くり自分の言い方で乗り切ろうとしていくんです。それがめちゃくちゃ面白くて。カットがかかるまでやり続けるので、阿部サダヲは本当にすごいと思いました」

──アナウンサーとしての話し方はどれくらい練習されたのでしょう?

「お芝居をさせてもらったことはあるんですが、標準語を使ったことがなくて。初めての標準語で、しかもアナウンサーという標準語の中でも一番高度…だけど、言葉を話すというよりは、せりふを話しているような感覚でやればできるかなと思ったら大きな間違いで、ものすごく難しかったです(笑)。『ラジオをお聞きの皆さん、こんにちは』というようなアナウンサーの言い回しや、『スイッチを切らないでください』など、実況じゃない部分のアナウンサー然としたしゃべり方がすごく難しくて。結局、アナウンサー的な発声は最後までできなくて、(アナウンス指導の)先生も途中で諦めていました(笑)」

──河西といえば「前畑がんばれ!」の実況が有名ですが、その音源は聞かれましたか?

「はい。淡々とやっているように聞こえましたけど、心の中は忙しかったと思います。アナウンサーとしての口調は絶対キープしなくてはいけないし、見ているものを伝えなあかんという気持ちもあっただろうし。気が気じゃないのと興奮がないまぜになってへとへとになったはずなのに、音源を聞くと割と淡々と聞こえる。あれだけの興奮を抑えて、抑制してやったということに驚きを感じます。でも、最後の最後、『ゴール!』って言わなあかんのに言い忘れているんです。『勝った! 勝ちました!』っていきなり勝つんですよ。『ゴール言わんかい!』みたいな(笑)。冷静にせなあかん状態の中で、とても冷静にはいられないせめぎ合いが格好いいし、人間味があふれていてすごい。名実況と言われるだけのことはあると思いました。でも河西さんのものまねができるようになったところで、それでOKなのかは疑問で。例えば、人の歌をカバーする時に何回も聴き込んでその人のように歌えるようになったら納得できるのかというと、それやと単なるものまねにしかならない。自分の個性を仕事の中に盛り込もうとしたら、見本を聞き過ぎるとそっちに寄っていくなというのがあって、途中から聞くことをやめました」

──ベルリンオリンピックに至るまで、河西は水泳チームの実況を行うことになりますが、水泳の現場の雰囲気はいかがでしたか?

「ロサンゼルスオリンピックの練習用プールのシーンで初めて水泳チームと一緒になったんですけど、外国人の人たちが野次馬的に金網の向こうからプールを見ていて、うその世界にいるような変な感じで。河西と松内則三(ノゾエ征爾)はメモ帳を持っているのでNHKのアナウンサーなんやという気分になるんです。目の前で選手が泳いでいて僕らは一生懸命メモを取っているんですけど、打ち合わせも何もなく、自然とすっとそういう世界に自分が置かれたような不思議な感覚でした」

──役者というよりも選手として接している感覚ということでしょうか?

「そうそう。だから斎藤工くんは高石勝男選手にしか見えない。真剣に練習しているように見えるんです。途中で小池礼三(前田旺志郎)選手が鼻血を出しちゃったんだけど、本当に練習をやりすぎて鼻血を出したように見えて…面白かったですね。だから水泳選手たちと実況するアナウンサーの距離感を演出されるまでもなく自然にそこにあったし、水泳選手団は本当に一丸となって競い合うように水泳の腕を磨いていて役者魂を見ました。鶴田義行役の大東(駿介)くんの体とか異常でしたね(笑)。筋骨隆々の体が太陽に当たって、筋肉がいい感じで陰影ついていて格好いいんですよ。当時の男性選手は女子スクール水着みたいなんですけど、皆さんちゃんと着こなしていました」

──各回についてお伺いしたいのですが、(8月11日放送の)第30回でロサンゼルスオリンピックでは、終わった競技を実況のように再現して放送するシーンがあるそうですが、その撮影はいかがでしたか?

「実際に河西さんがされていたことよりも僕なりのお芝居で、エモーショナルな感じでやった方が伝わるなと思ってやりました。自分でも面白おかしくできたんじゃないかなと思っています」

──ベルリンオリンピックの「前畑がんばれ!」と叫ぶ歴史的なシーンはどのように撮影されたのでしょう?

「愛知県に4泊して最終日に撮ったんですけど、それまで気が気じゃないというか。とにかく一番重くゆううつで、楽しみ半分、嫌さ半分。本当に大役だなというプレッシャーがすごかった。声も声のトーンもがんばれの回数も全然違うし、細かく言うと何から何まで違うので、自分なりの『前畑がんばれ』をぶちかますしかないというそれだけでした。実際に目の前で前畑(上白石)選手とのデッドヒートを見ながら、実況さながらにやるんですけど、そのときの自分のテンションを信じて、絶叫に近い感じで全身全霊叫び倒しました。それが一番求められているのかなとも思って」

──改めて、田畑役を演じる阿部さんと共演していかがでしたか?

「横で阿部くんの声がうるさすぎて、僕が自分のせりふをちゃんと言えないという…(笑)。カットがかかるたびに『邪魔してすみません』と謝ってくれて『大丈夫』というんやけど、声がでかくて翻弄されました。実際の田畑さんもまさにそんな人やったみたいで。エネルギーで人をどんどん巻き込んで翻弄していく人間だったみたいですね」

──うるさい田畑…放送が楽しみです(笑)。そんな中でもアナウンサーとして演技しなければいけなかったと思われますが…。

「僕はアナウンサーとして、冷静に受け止めるという抑制の利いたシーンだったので、自分の覚えてきたセリフを挟み込むということに徹してやっていましたけど、その合間に田畑が目を見て『うわーっ』と言ってくるから、どうリアクションしていいか分からなくて(笑)。ラジオを聞いている人は音声しか聞けないので、河西としてどうリアクションしたのかが分からないんです。だからひたすらうなずいて。そんな田畑を見た後に『前畑がんばれ!』の実況シーンがあったので、河西が主役のこのシーンは、田畑のどこまで暴走するか分からんような演技を、自分がやらなあかんと思いました。今は完成した映像を見るのが楽しみなような怖いような感じです」

──一方、前畑役の上白石さんの印象はいかがでしょうか?

「神秘的というか、遠くを見ているような目でしたね。前畑秀子さんを写真でしか見たことないけど、上白石さんは、ほんまに金メダルを取りそうな気がしました。気迫というのかな。ものすごい力が入っているわけじゃないけど、たたずまいがエネルギーに満ちあふれているような。『前畑がんばれ!』の実況シーンの時は、ずっと同じプールにいるのにあいさつができなかったです。お互いしそびれていただけじゃないような、近寄りがたい何かがありましたね」

──「いだてん」はスポーツ黎明期を描いていますが、トータスさんが感じる「いだてん」の面白さとは?

「女生徒が靴下を脱いで走ったことに対して、お父さんがどなり込んできたところはグッときました。たかだか百年前はそんな状況やったんやというのもびっくりだけど、それと同時に無理矢理でもそれを動かした人がいたんやというのは熱いものがこみ上げてきます。音楽でいうと、今は女子・男子混ざっているバンドがいっぱいいるけど、僕らが若い頃はなかった。バンドの中に紅一点で女の人がボーカルというのはあったけど、女の人がベース弾いたりドラムたたいたりというのはなかったんです。それも最近変わってきたことの一つで。最初にやり始めた誰かがいて、それがスタンダードになっていって…。そういうエネルギーをリアルに感じます」

──河西にとってスポーツ実況はどんな意味合いを持っていたと思いますか?

「まさに手探りだったでしょうね。河西さんが発明した言い回しもたくさんあると思うし、河西さんと一緒にLAに行った松内アナは野球の実況で、『ピッチャー振りかぶって…第1球投げた』の『振りかぶって』を考えた人なんですって。だから気構えとしては、自分が見ている情景を聞く人が思い浮かべられるような言い回しを、すごく考えていたんじゃないかな。気楽に言ったら申し訳ないけど、楽しかったんちゃうかなって思うんです。まだ誰もやっていないから誰のまねでもないじゃないですか。これから自分がそれをやっていくんやという楽しさがあったんちゃうかなって想像します。やったー!という日も全然できなかった日もあっただろうけど、ものすごいやりがいがあったと思いますね」

──最後に第2部の見どころをお願いします!

「スポーツがこんなに窮屈なものやったということも驚くし、それを何とかしてやろうという当時の人々や選手のエネルギー、そして戦争に巻き込まれて、スポーツが政治利用されていく過程での田畑のもがきや葛藤、ほかにも選手の気持ちとか台本を読んでいてもたまらない気持ちになるところがいっぱいあり、見どころが満載としか言いようがない。河西のシーンでは、ロサンゼルスオリンピックの時に実況放送ができなくて奥の手を考えたというのが、『本当にそんなことあったんや?』とおかしなことになっているんですけど、それがめちゃくちゃ面白いです。だいぶデフォルメされていると思うけど、『そんなあほな』という感じで。片やベルリンオリンピックでは、伸び伸びと実況をしているという落差もあって、スポーツやオリンピックスポーツ中継の進化も見られて、最高に楽しいと思います。どうぞご期待ください」

──ありがとうございました! 実感放送はもちろん、「こんにちは」の言い回しにとても苦労されたとのことなので、そこにも注目したいと思います。

 7月28日放送の第28回では、ロサンゼルスオリンピックの前哨戦となる日米対抗水上競技大会が開催され、ますます勢いづく日本チーム。一方、満州事変が起き、政局は混迷を極めていきます。政治記者でもある田畑の行動も気になるところです。


【番組情報】 

大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」
NHK総合 日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BS4K 日曜 午前9:00~9:45ほか
NHK BSプレミアム 日曜 午後6:00~6:45

NHK担当 K・H





 
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