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コラム

「いだてん」演出・大根仁、人見絹枝を演じた菅原小春を絶賛!「見たことがない芝居だった」

 7月7日放送・第26回の大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」(NHK総合ほか)では、100m走で惨敗した人見絹枝(菅原小春)が女子スポーツの未来のために800m走に挑みたいと懇願した姿に思わず涙をした人も多いのではないでしょうか? この回を演出した大根仁監督が、初めてのドラマ出演で、しかも大河ドラマという大舞台にもかかわらず、人々の心を揺さぶる迫真の演技をした菅原さんの印象や舞台裏を明かしてくださいました!

──まず、ロッカールームで菅原さんが演じる絹枝が800m走出場を懇願するシーンがとても印象的でしたが、どのような演出をされたのでしょうか?

「特別な演出はしていません。撮影が始まってすぐに、菅原さんの中に人見絹枝が出来上がっていることはなんとなく分かりました。結構な数のドラマを撮ってきているので、良くも悪くもこれくらいの感じになるなと予想できるんです。でもこの回は走っているシーンやラジオのシーンを、『あれ? あれ? これはもしかしたら…』 と思いながら撮っていて、最終的には人見絹枝が泣きながら800m走出場を懇願するシーンを撮影している時に、『これは自分の力を超えたとんでもないものが出来上がる』という確信がありました。それは現場のスタッフの反応を見ても感じました。僕は“神回”という言葉はあまり好きじゃないんですけれども、見えざる手というか、何か別の力に作らされているような、まさにそういう回でした。」

──“女優”としての菅原さんの演技はいかがだったでしょうか?

「素晴らしいの一言です。ただ、演技の経験が少ないので、テストでいきなりピークの芝居が出てきそうになった時に、『ちょっと抑えて、これは本番に取っておこう』とアドバイスしたのが唯一 した演出です。この回が放送されたら、菅原さんにオファーがいっぱい来そうですよね」

──スポーツ万能の絹枝を演じるにあたり、菅原さんもさまざまなスポーツの練習をされたと思いますが、その点についてはいかがでしたか?

「キャスティングした時に、菅原さんは運動神経の塊だから何をやっても大丈夫だろうと思っていたんです。でも、テニスの練習で放送回の演出から『ちょっとテニスやばいです』と言われて、『え! マジで?』となりました(笑)。すぐに習得したみたいですけどね。今回、競技を行う役者がたくさんいますが、まず彼らと同じ場所で基礎のトレーニングをしてもらって、体の動きを習得して、それからシーンに応じた心情を考えてもらい、最後は魂で演じてもらいました」

──ストックホルムオリンピックの時はロケでしたが、アムステルダムオリンピックはどのように撮影されたのでしょう?

「スタジオで撮影しました。スタジアムの映像を実際にプロジェクションマッピングのように、スタジオに観客席の映像を投射して、床に陸上のコースを作っていろんなアングルで手を変え品を変え、さもトラックを走っているように撮りました」

──俳優が本職ではない方を演出されることについての魅力を教えてください。

「経験で得たテクニックではなく、ピュアな演技を撮るのはワクワクします。菅原さんに関しては、本当に自分でも撮ったことのない、見たことのない芝居ばかりでした。少し話はズレますが、『いだてん』に関しては僕が脚本を書いているわけじゃないし、 ましてやアスリートという題材なので、自分がキャラクターに感情移入することはないだろうなと思っていたんです。だけど編集していた時に気付いたことがあって。今回初めて女子選手の出場が許されて参加し、後に続く人たちのために何かを残さないと帰れないという人見さんと、外部の自分が初めて大河ドラマの演出をするという立場と重ねることができて。自分も初めて大河ドラマに外部から演出として参加していて、人見さんほどの大義を背負っているわけではないし、あんまり言わないようにしているんですけど、大河ドラマという大舞台に対して『絶対に爪痕を残してやる。自分が失敗したら、これから外部から演出が呼ばれなくなるかもしれない』という気持ちは抱いているわけです。そういう意味で、ひょっとしたら自分の話かもしれないなと思えたというか、自分と人見さんを演じる菅原さんをシンクロさせることができた。これは僕にとっても“ご幸福”でした(笑)」

──二階堂トクヨ(寺島しのぶ)と絹枝のシーンもとても印象的でしたが、お二人の共演をご覧になっていかがでしたか?

「寺島さんには撮影前に『菅原さんは演技が初めてなので、よろしくお願いします』と伝えたところ、ダンサーとしての菅原さんのファンだったらしく、一緒に芝居をできることをすごく楽しみにしていらっしゃいました。でも本番に入ったら経験の差はあれど女優同士。初めて見る菅原さんの芝居を見てちょっと火が付いた部分が見えました。普通の芝居じゃないと言ったら偏見があるけど、僕も見たことがないタイプの芝居だったので。あの芝居を受けるのは、プロとしてテクニックだけでやるのは難しいと判断されたんじゃないんでしょうか。ちょっとエモーションというか本当に魂でぶつからなきゃダメだと、寺島さんも思われたのではないでしょうか。演出に関しては、人見さんの物語がストイックだから、トクヨ先生と会っているシーンだけは温かく柔らかくしようと思って、あのような映像や照明のタッチになりました。演出ではカバーしきれない菅原さんを大きく包み込むような芝居は、寺島さんの力があってこそだと思います」

──作中、3回お菓子のシベリアが登場していましたが、その意図は?

「あれは宮藤さんがお菓子のシベリアとシベリア鉄道をかけて書かれたんだろうなと。そこを宮藤さんに聞くのは野暮なので、意図を汲み取りました。台本では1回しか出てこなかったのですが、意外と大事な小道具になるような気がして、最後のシーンでも使いました。それまで人見さんが口にしていなかったシベリアを最後、大口を開けて食べるんです。僕は大口を開けて食べてとは演出していないんですけど(笑)。この第26回は何回見ても泣いてしまうんですが、しまいにはシベリアを食べている顔だけで泣くという…。今回、菅原さんのすてきな表情をいろいろ見せてもらいましたが、シベリアを食べた後に、ピアノの音が聞こえてきてモグモグしながら気付く顔は、演技を超えた何かがあるなと感じました。ああいう表情って、本当に難しいので」

──ラストのシーンでいえば、菅原さんが女学生らとダンスを踊るシーンがありましたが、ダンスの練習などはされたのでしょうか?

「あのシーンは使ったのは短いんですけれども、実はフルコーラスでちゃんと踊っているんです。女学生役の方々は、1日たっぷり稽古をして踊れるようになったのですが、菅原さんは、現場で1回見て、すぐに覚えていました。さすがだなと思いました」

──最後に、ご自身が演出をされた第26回「明日なき暴走」をあらためて振り返っていかがでしたか? また、クライマックスの競技と資料映像と五りん(神木隆之介)の落語のシンクロ部分についても教えてください。

「こんなことはめったにないんですけど、自分が作った作品なのに、何を作ったのか自分でもまだ整理がうまくできてないんです。でも見ていただいた皆さん全員に本当に良いと言っていただいていて『いだてん』の制作統括に清水(拓哉)さんという、血も涙もない人がいるんですけど(笑)、その人が試写の時から何回見ても泣くんですよ。清水さんが泣いているんだったらこれはいいんだろうなと思いました。シンクロ部分に関しては、『いだてん』は、オリンピックの資料映像と実際に演じた競技のシーンをどうシンクロさせていくかが初回からテーマになっているんです。今回はスタジアムで走れるわけでもないし、映像ギミックと編集テクニックに見せようという試みだったので、緻密に計算しました。また、五りんの成長物語という側面もあるので、初めて古今亭志ん生(ビートたけし)に『うまいねえ』と褒められることが、うそっぽくならないように、神木には『以前よりちょっとうまくなっていて、認められるぐらいの感じでやってほしい』とは伝えました」

──ありがとうございました!

 大根監督も自信作の本作。記者も試写会にハンカチを持っていかなかったことをどれだけ悔やんだことか。「見逃した!」という方は7月13日の再放送でご覧いただけますよ!


【番組情報】 

大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~」 
NHK総合 日曜 午後8:00~8:45ほか
NHK BS4K 日曜 午前9:00~9:45ほか
NHK BSプレミアム 日曜 午後6:00~6:45
(第26回の再放送は、NHK総合 7月13日 午後1:05~1:50/NHK BS4K 7月14 午前8:00~8:45)

NHK担当 K・H





 
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