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車いすラグビー界で輝く女性アスリート・倉橋香衣選手「もっと成長しなければいけないと思っています」2019/10/09

Cheer up! アスリート2020!

 2018年に世界選手権で優勝し、2020年東京パラリンピックでも期待されている車いすラグビー日本代表。代表初の女性選手として注目を浴びる倉橋香衣が、競技やパラリンピックへの思いを語る。

ぶつかる力。

 小学校から高校まで器械体操を続け、大学ではトランポリン部で活躍していた倉橋香衣。ところが、大学3年時の大会での練習中に誤って頭から落下し、頚髄損傷の大ケガを負ってしまう。胸から下がマヒし、動かせるのは肩から上だけという状況にもめげず、「1日も早く大学に戻りたい」とリハビリに励んだ。そんな中、車いすラグビーとの運命の出合いを果たす。

「事故の後、リハビリの一環として卓球とか水泳とか、色々なスポーツをやっていたんです。そんな中で、ある日車いすラグビーに出合って“一番面白い”と思ったんです。たとえば、ツインバスケ(=車いすツインバスケットボール)もやったことがあるんですけど、『ゴールにぶつかったらダメ』など、色々決まりがあるんです。でも車いすラグビーはぶつかっても怒られへんから良いなと(笑)。見ていただけではこの競技が面白いかどうか分からなかったけど、実際にやってみたら本気でぶつかり合ったりするのが楽しくて。最初はルールや戦術が分からなくて大変でしたけど、それが分かるようになってくると面白くて、どんどんのめり込んでいきました」

 車いす競技の中でも唯一タックルが許されているのが、この車いすラグビー。それが彼女の感性にマッチした。「みんな(相手を)倒すくらいの勢いでぶつかっていくので、そこが面白い。恐怖心は特になかったです」といたずらっぽい笑顔を見せる。当然チームメートは男性ばかりだったが、そこも意識せずともなじめたという。

「みんなで練習したり、ご飯を食べたりしている時、ふと気づくと『そう言えば、周りはオジサンばっかやな』と(笑)。向こうも私のことをなんとも思ってないし(笑)。練習の時は戦術やプレーの話もするけど、それ以外はたわいのない雑談をしています。この前、どこどこに行ったとか、何がおいしかったとか」

Cheer up! アスリート2020!

 今日本では、車いすラグビーの女性選手は3人しかいない。

「4年前に私が始める前は1人しかいなくて。今は3人になったけど、そこから増えないです。同時期に入院していた友達にも『一緒にやろうよ』と声をかけたりしたけど、『いやぁ……』ってなかなか参加してくれなくて(笑)。女性だと、ぶつかるのが怖いのかもしれないですね」

 “女性初の日本代表選手”としてマスコミで取り上げられることも多い彼女。だが、“女性”というだけで注目されることには、ある種の違和感を感じているようだ。

「取り上げてもらえるのはうれしいことだけど、ただ“女性選手”ということだけで注目されるのは正直悔しいです。もっと『あいつのプレーがすごい』とか『こういう動きができるからゴールにつながる』とか言ってもらえる選手になりたいし、そのために自分がもっと成長しなければいけないと思っています」

Cheer up! アスリート2020!

 彼女は守備的な役割の「ローポインター」の選手で、「ハイポインター」の選手が通りやすいようスペースを作るという役割を担っている。

「今、身につけようと思っているのは、先を読んで動くこと。私が迷って、ちょっとでも動き出しが遅かったらゴールにつながらないので。車いすラグビーって、バンバンぶつかっているだけの競技に見えるけど、すごく頭を使うんですよ。相手や味方の状態とか、時間の配分とか。そういうことも考えて動けるようになることが課題です」

 そう明るく語る彼女だが、けがをしたため現在はコンデイション調整中。プレーに復帰できるのは来年の見込みで、東京パラリンピックを一番の目標に置いている。

「不安になったり、落ち込むこともありますよ。でも来年、東京パラリンピックに出るという一番の目標があるので、『ちゃんと治して頑張ろう』と。今は“前向きな休息”だととらえています。東京パラリンピックには(開催国枠での)出場が決まっているけど、メンバーに入れるかどうかは分からないので、なんとかメンバーになって金メダルを取りたいです。意気込みというよりも“楽しみ”ですね。友達や家族にも試合を見てもらえる機会ですし。去年の世界選手権での決勝(対オーストラリア)では、向こうの応援がすごくてアウェー感があったけど、今度は逆に、こっちが盛り上がっていきたいなって思っています。車いすラグビーって、ぶつかるときのスピードや音がすごくて、会場で見たらテレビで見るのとは全然迫力が違うと思います。そこが一番の魅力なので、多くの皆さんに関心を持ってもらえるとうれしいですね」

Cheer up! アスリート2020!

【TVガイドからQuestion】

Q1 印象に残っているスポーツ名場面を教えて!

今言われて思い出したのが、アテネオリンピックで体操の冨田洋之選手が新月面宙返りを決めたシーン。今は見ていないけど、昔はよく体操の試合を見ていて、それが一番記憶に残ってますね。…結構、普通の答えかも(笑)。

Q2 好きなTV番組/音楽(応援歌)を教えて!

TV番組はあまり見ないですね。音楽もあんまり……あ、友達に連れられてaikoさんのライブに行ったことがあります。親はスターダスト☆レビューが好きで、私も小さい頃からよく聴いていました。でも試合前は、あまり聴かないかな。

Q3 “2020”にちなんで、“20”日間お休みがあったらやりたいことを教えて!

国内旅行ですかね。熊本、福岡、北海道、富山、石川、青森、秋田とか。東北には行ったことないので。あとは実家にも帰りたいし、キリがないです!

Cheer up! アスリート2020!

【車いすラグビーとは?】
1チーム4名(男女混合)で競技。試合は1ピリオド8分の4ピリオドで行う。パス(前方へのパスも可)やドリブル、ボールを膝の上に乗せて運んでいき、得点する。相手の攻撃を防ぐために、車いすによるタックルも認められている。また、車いすバスケットボールと同様、障がいの程度に応じて0.5点(障がいが重い)~3.5点(障がいが軽い)の持ち点制を採用。1チームは合計8.0点を超えないよう構成する。女性が1人参加する場合は8.5点編成となる。

【プロフィール】

倉橋香衣(くらはし かえ)

1990年9月15日兵庫県生まれ。乙女座。A型。

▶︎高校まで器械体操、大学ではトランポリン部に所属していたが、練習中の事故で頸髄損傷。そのリハビリ中に車いすラグビーと出合う。

▶︎2015年に強豪クラブのBLITZに加入し、大学卒業後に商船三井に入社。

▶︎17年度に日本代表に選出される。また女子だけの世界大会に日本の女子選手3人で参加。韓国、ニュージーランドの選手とチームを組んだ。「女子ばかりやからスピードも当たりもすごくないけど、やっている戦術は同じやし、楽しくプレーできました。自分は車いすラグビーが好きやと再確認できたし、ほんま楽しいと思えた大会でした」。

▶︎18年、オーストラリアで開催された世界選手権で初優勝。「パラリンピックと同じような大きい大会で、そこに出場できたこと、優勝を経験できたことは大きかったです」。

取材・文/水野幸則 撮影/為広麻里



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