気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム

山形・酒田との深い縁・・・、大杉漣さん「世界一と言われた映画館 酒田グリーン・ハウス証言集」で最後の語り

 先週、突然知ることとなった大杉漣さんの訃報は、多くのドラマファン、映画ファンを驚かせました。大杉さんの生前の活躍は今さら説明するまでもありませんが、俳優として画面やスクリーンに登場するだけでなく、落ち着いた温かみのある声でナレーションの仕事も数多くされ、ドキュメンタリー分野でもその作品価値を常に高めてきました。昨年も映画「米軍(アメリカ)が最も恐れた男 その名は、カメジロー」でナレーターを務めましたが、4月から山形県内で公開されるドキュメンタリー映画「世界一と言われた映画館 酒田グリーン・ハウス証言集」のナレーションもされていました。

 この映画の舞台は山形県酒田市。かつて同市にあった「世界一デラックスな映画館」と言われた「グリーン・ハウス」という劇場の証言を記録した映画です。1949年に昭和の港町・酒田で初代支配人の佐藤久一さんが作り上げた豪華な劇場は、彼の高い志で文化交流の場として根付き、地元市民はもとより全国から注目されました。映画評論家の淀川長治氏が「世界一の映画館」と評したという伝説のグリーン・ハウスですが、1976年10月末の酒田大火の火元となり焼失。その後、人々の記憶から消し去られていきました。

 山形といえば、ドキュメンタリー通なら山形国際ドキュメンタリー映画祭をご存知の方も多いはず。この国内最大規模緒のドキュメンタリーイベントを運営するNPO法人山形国際ドキュメンタリー映画祭(YIDFF)は、この世界に誇れる映画館が酒田にあったことを伝え残そうとグリーン・ハウスを愛した人たちの取材を始め、その証言を集めて構成。67分の記録映画に仕上げました。

 ではなぜ、この映画に大杉さん? 徳島県出身の大杉さんに特にゆかりがあるとは思えず、最初は少し疑問に思いました。映画の中には、酒田大火時の資料映像(上記写真)が流れますが、その素材は地元・山形放送が提供したものです。同局が、2013年に開局60周年を迎えた際に、大杉さんはラジオドキュメンタリードラマ「港町の“幸福な昭和”~映画と恋とフランス料理~」(同年9月放送)に出演。そこで、グリーン・ハウスの支配人である佐藤久一さんの役を演じ、ナレーターも務めていました。この佐藤久一という人物は、映画館グリーン・ハウスのみならず、その後、日本一と言われたフランス料理店ル・ポット・フーの支配人を務めるなど破天荒な人生を歩んだ方で、大杉さんはその魅力にひかれるとともに、彼が生まれ育った酒田にも大きな関心を寄せていました。

 またそれだけでなく、この映画を企画、撮影した佐藤広一監督との古い縁もありました。今から約20年前、当時高校生だった田巻源太監督(現在は編集マン)から声をかけられた佐藤監督は、大杉さん主演の自主制作の短編映画「黒いカナリア」(2000年)を撮るのを手伝った経験があります。高校生スタッフが中心となって撮った作品で、大杉さんは名前すらなかった役であるにもかかわらず、納得したものには出るというポリシーで出演。いかにも男気を感じるエピソードです。佐藤監督が今回、大杉さんにナレーションをお願いすると、その再会を喜んでくれたそうです。

 こうして完成した「世界一と言われた映画館~」は、昨年10月に開催された山形国際ドキュメンタリー映画祭で初披露されましたが、実はその後もう一度、この映画の上映がありました。それは、酒田市内で行われた大杉漣バンドのライブでのこと。ギターを奏で音楽活動にも精力的だった大杉さんたっての希望で実現したこのライブは、かつては映画館だったという「港座」を会場に行われました。そして、そのライブの後に、グリーン・ハウスが地元のスクリーンに映し出されたのでした。なお、このライブにかかった費用は、「ぐるぐるナインティナイン」(日本テレビ系)の『ゴチになります!』コーナーで獲得した賞金が充てられ、そのことは同番組内でも紹介されています。グリーン・ハウス支配人の佐藤久一と酒田との縁を大切にしてきた大杉さんにとって、酒田「港座」でのイベントをどれほど楽しみにしていたのかが容易に想像できます。しかもライブと上映会が行われた10月29日は、奇しくも酒田大火の発生した日。何か運命めいたものを感じずにはいられません・・・。

 今、同日の歴史を調べると――山形県酒田市で火災が発生。強風にあおられた商店街など22.5ヘクタールが焼けた――(共同通信社・刊「ニュース予定」より)と書かれ、「グリーン・ハウス」どころか、映画館の文字すらそこにありません。40年を経て、人々の記憶から消えかかっている今、地元の人々の深い愛情がつまった思い出の地を語り継ぐのがこの映画であり、それをナビゲートしているのが大杉さんの声です。

 この作品で大杉さんと再会を果たした佐藤監督から、以下メッセージを寄せていただきました。
「初めてお会いしてから20年が経ちました。あの頃から、その気さくな人柄は変わらないままでした。本作へのナレーション参加にもご快諾頂き、仕事をご一緒させて頂いたことは私の人生の宝物です。今まで本当にありがとうござました。大杉さんとの舞台挨拶はかなわぬ夢となりましたが、私たちの想いは大杉さんのその声を通して、スクリーンに深く刻み込まれました」

 映画のチラシには大杉さんの直筆の書が小さく掲載されています。世界一と言われた映画館は、名優・大杉さんの“生きた言葉”によって永年に語り継がれます。


映画「世界一と言われた映画館 酒田グリーン・ハウス証言集」
■2017年 語り/大杉漣 監督・構成・撮影/佐藤広一 プロデューサー/高橋卓也(YIDFF事務局長)
*かつて世界一と称された伝説的映画館である山形県酒田市のグリーン・ハウスは、1976年10月に起こった酒田大火で焼失し、人々の記憶から消えていった。40年の時を経て酒田に実在した夢の映画館を、元従業員や客らの貴重な証言でよみがえらせるトリビュート・フィルム。

4月20日(金)より
山形県鶴岡市・鶴岡まちなかキネマ、同山形市・フォーラム山形で公開

「世界一と言われた映画館 酒田グリーン・ハウス」上映会
4月7日(土)
新潟市・カフェパルム(中央区古町通り6番町987)

酒田先行上映
4月14日(土) 午後1:00、3:30、6:30
会場:酒田市総合文化センターホール(酒田市中央西町2-59)

*詳細・スケジュールは公式サイト、または各劇場でご確認ください。
認定NPO法人 山形国際ドキュメンタリー映画祭
https://www.yidff.jp/home.html

写真提供:山形国際ドキュメンタリー映画祭
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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