気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム

第37回「地方の時代」映像祭2017が、11月11日から関西大学・千里山キャンパスで開催

 1年前、本コラムの初回で紹介した「地方の時代」映像祭。今年で第37回を数える伝統の映像コンクールが、11月11日(土)から17日(金)まで大阪・吹田市にある関西大学の千里山キャンパスで開催されます。全国各地の放送局、ケーブルテレビ局、市民・学生・自治体、高校生の番組が一堂に会する、オリジナリティあふれる映像コンクールです。今年は「地域だから見えるもの 地方だから伝えられること」をコピーの下、放送局部門149作品、ケーブル部門45作品、市民・学生・自治体部門79作品、高校生(中学生)部門14作品の、計287作品の応募がありました。先月、これらの中から入賞作品32作品が決定。そこで、今回は放送局部門で入賞した10番組を紹介したいと思います。




 熊本放送「RKKスペシャル『祖父の日記~時を超え 家族に伝える戦争の真実~』」は、番組を企画した井上佳子(けいこ)ディレクターが祖父の日記から戦争とは何かを解き明かそうとした重厚なドキュメンタリー。27歳の若さながら中国戦線で戦死した祖父が残した日記にいつか向き合わねばと、その足取りをたどって中国へ渡りました。「祖父の戦争を、その一日一日を、自身で伝えたい」と取り組んだ井上ディレクターにとって自分の家族と戦争に正面から対峙した、集大成といっても良いでしょう。本欄でも紹介した、今年2月に全国で放送された「第31回民教協スペシャル」の再編集版です。

 信越放送「SBCスペシャル かあちゃんのごはん」は、ひとり親の家庭、とりわけ厳しいシングルマザーを取り巻く環境について問いかける番組。長野県内で初めて、ひとり親をターゲットに移住のお試しツアーを行った青木村。首都圏暮らしから長野県の山村へ、このツアーを経験した1組の親子を通して、都会で生きづらさや、行政支援の画一的で個々の現実にそぐわないなか、親子はどう生きる道筋を見出せばよいのかを探ります。「産休前にどうしてもこの番組を作りたい」と直訴した中村育子ディレクターの思いが実りました。

 テレビ金沢「ある日、突然・・・過敏症 化学物質に苦しむ患者たちの5年間」は、環境省から日本の人工の7.5%が対象でると報告されている新たな現代病“化学物質過敏症”についてフォーカスした番組。近年増え続けている化学物質によって体調の悪化・・・。一方で、CM収入がよりどころの民間放送局では、この問題はタブー視されてきました。この映像祭をはじめ、アワードの常連の一人で、守備範囲の広い中崎清栄ディレクターの手腕が多いに発揮された作品だと思います。

 MBS「映像’17 沖縄さまよう木霊~基地反対運動の素顔~」は、2016年10月、米軍のヘリパッド建設現場での大阪府警の機動隊員による「土人」発言、このニュースに対する地元・大阪市民の反応や事実への無関心さに危機感を持ち、急きょ取材、制作に取り組みました。基地反対運動をめぐる“言説”を検証し、反対運動がなぜ標的にされるのか、その背景を追うことで今日のメディアの問題として捉えた番組です。斉加尚代ディレクターは、取材相手から言われた「何もしないことは政治的」という言葉を心に刻み、テレビジャーナリズムの本来の使命を果たそうとしました。

 メ~テレ「メ~テレドキュメント 防衛フェリー ~民間船と戦争~」は、新しい安保法制の下、総理官邸に近いメディアが報じない重大な変化を、ローカルから突きつけた番組。戦後71年の取材ディレクターは、戦争中に多くの漁船が徴用され、海外に派遣されていたことを知ると同時に、防衛省が民間フェリーと契約し、有事の際に運航することに気づきました。つまりそれは「有事の際の民間人の活用」。戦争中の徴用と防衛省が進める「民間の活用」が結びついたのでした。この重大な事実を視聴者に伝えたいという強い思いが番組になりました。

 チューリップテレビ「はりぼて 腐敗議会と記者たちの攻防」は、富山市議会議員の政務活動費の不正をめぐる調査報道を1本のドキュメントにまとめた番組。チューリップテレビのスクープ報道をきっかけとした富山市議13人の辞職ドミノは、社会的にも一大トピックとなり、調査報道のお手本と絶賛されました。その発端は、ふとした疑問からの情報公開請求。県内最後発局の小さな報道部が真のジャーナリズムとは何かを全国に知らしめたことはこれまでもお伝えしてきたとおりです。

 NHK沖縄放送局「NHKスペシャル『沖縄 空白の1年~“基地の島”はこうして生まれた~』」は、沖縄と日本、アメリカの関係の新事実を明らかにした調査報道番組。米・公文書館の資料を元に1945年から46年にかけて徹底取材。アメリカの陸軍、海軍による沖縄政策の思惑の違い、そこにはまだ明確に定まらない空白の1年があったことが判りました。しかし、共産主義勢力が台頭する中、アメリカは沖縄を「基地の島」として利用することに傾いていったようです。今につながる沖縄基地問題の原点を見つめています。これこそ教科書に載せてほしい歴史の事実を教えてくれています。

 三重テレビ「大ちゃんと為さん~あるまちの風景~」は、同局が長年取り組んできたハンセン病の取材の締めくくりと位置づけられた作品。ハンセン病療養所のある、中国地方のある島を“まち”に見立て、そこで暮らす3人の人生に迫ります。この番組の制作した小川秀幸ディレクター(プロデューサー兼務)は、これまで長年にわたって三重とハンセン病の関係などを取材、番組制作の記録を著書にまとめています。差別の現実や偏見解消への思いを表現したいという信念は揺るぎないものがあります。

 東海テレビ「きずあと 101歳 戦争と平和のレクイエム」 は、戦後70年に当時100歳だった杉山千佐子さんの生涯を描いて「戦争と平和」に見つめた番組。の会長を務めた杉山さんは、名古屋に生まれ、名古屋空襲で左目を失い、1970年には全国戦災障害者連絡会も立ち上げました。名古屋で叫び続けた杉山さんの姿を、地元のメディアとして記録し、多くの人に知ってもらうことがその役目と強い使命感を持って作られた作品。映画「人生フルーツ」の伏原健之監督のプロデュースという点でも注目です。

 最後は、NHK「こころの時代~宗教・人生~ 地の底の声 筑豊・炭鉱に生きた女たち」。東京制作の番組ですが、舞台は近代日本を支えた炭鉱地帯・福岡県筑豊です。炭坑で働いた女性の声を記録した井手川泰子さんの解説を中心に、死と隣り合わせに生きてきた女性の姿を紹介しています。井手川さん自身も戦争末期の空襲で焼け出され、北九州市から鞍手町に疎開。孤独な少女だった彼女を受け入れてくれたのは炭住に暮らす女性たちだったのだそうです。過酷な現実の中でこそ見せる他者への思いやりや笑い。井手川さんはそれらの深みについて静かに語っています。




 映像祭初日11日に行われる贈賞式では、上記10作品を含む入賞作品計32作から、それぞれの部門の「優秀賞」「選奨」「奨励賞」を表彰、合わせてグランプリが発表されることになっています。贈賞式後には、作家・吉岡忍氏の記念講演、グランプリ受賞作品の上映に続き、「テレビは挑戦を続ける」と題するシンポジウムも行われます。翌12日は、4つのワークショップのほか、並行して入賞作品をはじめ一次審査を通過した約70作品を上映します(17日まで)。



第37回「地方の時代」映像祭2017 [放送局部門]入賞作品
「RKKスペシャル『祖父の日記~時を超え 家族に伝える戦争の真実~』」
RKK 熊本放送   2017年3月29日放送
■ディレクター/井上佳子  プロデューサー/沼野修一
*1938年、中国戦線で戦死している井上佳子ディレクターの祖父。自宅から祖父の日記が新たに見つかった後、中国・上海へ向かった。日が経つにつれ変わっていく祖父の心情。祖父の戦争をたどっていく。
「SBCスペシャル かあちゃんのごはん」
SBC 信越放送   2017年4月26日放送
■ディレクター/中村育子  プロデューサー/小林徳明
*首都圏で暮らすシングルマザーのけいこさん。2016年夏、長野県・青木村が行った、ひとり親家庭を対象にした移住のお試しツアーに参加した。都会の生きづらさを感じる彼女と娘の10カ月を追った。
「ある日、突然・・・過敏症 化学物質に苦しむ患者たちの5年間」
テレビ金沢   2017年5月30日放送
■ディレクター/中崎清栄  プロデューサー/金本進一
*柔軟剤、整髪剤、農薬・・・など、暮らしを便利にする化学物質で体調を悪くする人が増えている。ニュース特集で放送した“暮らしに潜む危険”を、化学物質過敏症に苦しむ3人の患者の例から再構築した。
「映像’17 沖縄さまよう木霊~基地反対運動の素顔~」
MBS   2017年1月29日放送
■ディレクター/斉加尚代  プロデューサー/澤田隆三
*2016年10月。沖縄県東村高江地区の米軍ヘリパッド建設現場で抗議する住民に対し、大阪府警の機動隊員が「土人」とののしった。沖縄の基地反対運動の本質とそこに関わる人々の素顔を丁寧に伝える。
「メ~テレドキュメント 防衛フェリー ~民間船と戦争~」
メ~テレ   2017年5月29日放送
■ディレクター/依田恵美子  プロデューサー/村瀬史憲
*防衛省が民間フェリーと船員を運用できる制度をスタートさせている。戦時中、漁船などの民間船が「徴用」され、その死亡率は海軍の倍を数えた。官邸に近いメディアが報じない重大な変化を浮き彫りにする。
「はりぼて 腐敗議会と記者たちの攻防」
チューリップテレビ   2016年12月30日
■ディレクター/五百旗頭幸男  プロデューサー/中村成寿
*議員報酬の月10万円引き上げを画策した富山市議会。審議会はわずか3時間の非公開審議で市長に答申、議会はこれを可決した。緩み切った議会に疑問を抱いた記者は政務活動費の情報公開請求をする。
「NHKスペシャル『沖縄 空白の1年~“基地の島”はこうして生まれた~』」
NHK沖縄放送局   2016年8月20日放送
■ディレクター/長島悠 松岡哲平 酒井有華子  プロデューサー/松木秀文 佐藤稔彦
*終戦直後の1945年から46年にかけて、アメリカの沖縄政策は明確に方針が定まっていない“空白期間”があったことが取材で分かった。日米両国の思惑により次第に「基地の島」へと変貌させられていく。
「大ちゃんと為さん~あるまちの風景~」
三重テレビ   2017年5月24日放送
■ディレクター・プロデューサー/小川秀幸
*らい予防法が廃止から20年。2つのハンセン病療養所がある島をひとつの“まち”に見立て、島で暮らす三重県出身者の人生を通して、差別の現実や偏見解消への思いを訴えた、同局のハンセン病取材の集大成的番組に。
「きずあと 101歳 戦争と平和のレクイエム」
東海テレビ   2017年1月9日放送
■ディレクター/葛西友久  プロデューサー/伏原健之
*名古屋空襲で左目を失った杉山千佐子さんは、空襲で傷ついた民間人への国の救済を訴えてきた。元新聞記者・岩崎建弥さんは杉山さんを見守り、記事で伝え続けた。杉山さんの生涯から「戦争と平和」を考えた。
「こころの時代~宗教・人生~ 地の底の声 筑豊・炭鉱に生きた女たち」
NHK   2016年11月13日放送(Eテレ)
■ディレクター/首藤圭子  プロデューサー/舟迫将信 浅井靖子
*かつて日本一の炭鉱地帯として栄えた福岡県筑豊。坑内では多くの女性が支え合い働いていた。彼女たちを訪ね歩き貴重な肉声を記録した井手川泰子さんは、人間存在の根底にある尊いものを見出していく。
第37回「地方の時代」映像祭2017
日時:11月11日(土)~17日(金)
場所:関西大学 千里山キャンパス
   (第3学舎ソシオAVホール/100周年記念会館)
   大阪府吹田市山手町3-3-35

11月11日(土) 第3学舎ソシオAVホール
贈賞式、記念講演、グランプリ作品上映、シンポジウム
◇午後0:30~2:00 第37回「地方の時代」映像祭贈賞式
◇午後2:00~2:50 記念講演「表現の自由の今」
           講演者/日本ペンクラブ会長 吉岡忍
◇午後3:00~4:00 グランプリ受賞作品上映
◇午後4:00~6:20 シンポジウム「テレビは挑戦を続ける」
  司 会  /吉岡忍
  パネリスト/圡方宏史(東海テレビ) 佐々木健一(NHKエデュケーショナル)
        高橋弘樹(テレビ東京) 小田玲奈(日本テレビ)

11月12日(日) 100周年記念会館
ワークショップ・受賞作品上映
◇午前10:30~午後2:00 「高校生・大学生の映像制作」
◇午前10:30~午後2:00 「私はコミュニティチャンネルで何をめざすか」
◇午後 2:30~5:30 「LGBTについて大学生が取材しました」
◇午後 2:30~5:30 「あなたは朝鮮半島の実像を知っていますか?」
◇午前10:30~午後6:00 コンクール受賞作品上映

11月13日(月)~17日(金) 100周年記念会館
◇午前10:30~午後6:00 コンクール受賞32作品ほか、一時審査を通過した約70作品を上映

問い合わせ・スケジュール詳細はHP
http://www.chihounojidai.jp/
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者に知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続け。

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