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コラム
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「文化庁映画週間」映画賞大賞・テレビ長崎「五島のトラさん」ほか3作の受賞記念上映会を開催

 日本文化の発信を担い日本映画の振興に取り組む文化庁が、東京国際映画祭期間中に「文化庁映画週間」(10月25日~29日)を開催。そのメインとなる、優れた文化記録映画作品を表彰する平成29年文化庁映画賞の受賞作を発表しました。大賞にテレビ長崎制作の「五島のトラさん」が、また優秀賞2作に東海テレビ制作「人生フルーツ」と製作会社・グループ現代による「まなぶ 通信制中学 60年の空白を越えて」の、合わせて3つのドキュメンタリー映画が選ばれました。このほか、日本映画を永年支えてきた方々に対する映画功労部門の顕彰も合わせて発表。文化庁映画週間のオープニングとなる今月25日に贈賞式が行われるほか、28日に受賞記念上映会、29日にはシンポジウムが開催されます。

 今回、大賞を受賞したテレビ長崎の「五島のトラさん」は、長崎県五島列島で製麺業を営む9人の家族を22年間にわたって取材したドキュメンタリー。子どもの成長、結婚、出産、帰郷、別れ、喜び、悲しみなど、家族の風景22年を描いています。2015年に放送された「五島のトラさん~父親と家族の22年~」という1時間番組を再編集して映画化したものです。監督である同局の大浦勝ディレクターが、1993年に別の家族の取材で現地に行った際、おもしろい家族がいると紹介されたのがトラさん一家でした。以来、初めは30分番組で、その2年後に1時間番組で放送。10年後には「五島のトラさん~9人家族の10年~」という1時間番組を放送し好評を博しました。それからさらに10年後、大浦ディレクターが集大成として取り組んだ「五島のトラさん~父親と家族の22年~」は、2015年FNSドキュメンタリー大賞のグランプリを獲得するなど各方面で高い評価を得ました。当時「1時間に納めるのは大変難しい作業だった」と振り返る渾身の番組に、さらに手を加えて劇場版に昇華させたのが今作です。島の美しい自然を背景に現代社会で忘れかけている「家族」を伝えていることに加え、主人公トラさんの圧倒的な存在感で「卓抜なドキュメンタリー」と贈賞理由で称賛されています。

 優秀賞の1つ「人生フルーツ」は、もはや説明不要なくらい度々紹介してきた作品。東海テレビの地元、愛知県の建築家・津端修一さん夫妻の自然と調和した豊かな晩年を描いたもので、同局の人気ドキュメンタリーの映画化第10弾にあたります。二人の背景にある戦後史を丁寧に綴り、高度成長下の日本社会との齟齬を浮かび上がらせていること、夫婦の生活思想が日常の中で雄弁に語られていることなどが高く評価されました。同映画は先ごろ、大きな目標であった観客動員20万人を突破。ドキュメンタリー映画としてはまさに異例のヒットで、今年1月に公開以降いまだ全国各地でロングランが続くほか、既に上映を終了した劇場でのアンコール上映が次々と実現しています。

 優秀賞のもう1作「まなぶ 通信制中学 60年の空白を越えて」は、都内で全国唯一ある通信制中学校で義務教育を受けられなかった人たちの授業の様子に密着したドキュメンタリー。2014年に放送されたNHKの「ETV特集『学ぶことの意味を通して~神田一橋・通信制中学の歳月』」を原型に、新たな映像を加えて映画化されたものです。戦争や貧困によって新制中学校に通えなかった高齢者が、スクーリングで教室に通い学んでいく姿を寄り添うに映し出し、70歳を超えた人々が学校生活を体験して「まなぶ」ことにどんな意味があるのかを問うています。教職課程を学び、非常勤講師として実際に教壇に立ったことがある太田直子監督は、夜間学校に集う人々を描いた映画「月明りの下で ある定時制高校の記憶」(2014年)も制作。こうした経験が、年長の生徒と年下の教師の信頼関係や、言葉に言い尽くせない苦労を重ねた者同士の交流を実に丁寧に描き、「まなぶ」ことの喜びや素晴らしさが全編から伝わるように構成されています。贈賞理由でも「学ぶことへの意欲と勇気を与えてくれる」と評された、すがすがしい作品です。

 今回受賞した3作品はいずれも、長期取材によるテレビドキュメンタリーを基に映画化している共通点があるのも興味深いところ。これら3作品が観られる特別上映会の観覧を現在、公式ホームページで受け付けています。当日は受賞者をゲストに迎え、作品の背景や製作裏話などを聞くことができそうです。翌29日の「シンポジウム―MOVIE CAMPUS」では、映画文化としての「クラシックスの新たな魅力」について討論。デジタル復元などでより新たに展開されている邦画クラシックスの魅力について語り合いなど、映画週間を通してあらためて映画の魅力や可能性を探ります。


平成29年度文化庁映画賞[文化記録映画部門]受賞作品
大賞「五島のトラさん」 
■制作/テレビ長崎  ナレーション/松平健  監督/大浦勝
*長崎県五島列島で製麺業を営むトラさん一家。「自分の子は自分で鍛える」というトラさん。7人の子は朝5時に起き、うどん作りを手伝い学校に行く。トラさん家族の9人の22年に密着した感動のドキュメンタリー。同郷さだまさしの「案山子」がテーマ曲。
※BS日本映画専門チャンネルで11月23日(木)午後8時から放送。
優秀賞「人生フルーツ」 
■制作/東海テレビ  ナレーション/樹木希林  監督/伏原健之
*愛知県にある高蔵寺ニュータウンに住む90歳の建築家・津端修一さんと87歳の英子さん夫妻。雑木林と畑を育てながら四季折々の理想の暮らしを求めて生活する2人に密着。人生の豊かさとは何かを問いかける。
優秀賞「まなぶ 通信制中学 60年の空白を越えて」 
■制作/グループ現代  監督・語り/太田直子
*戦中・戦後の混乱期に義務教育を修了できなかった高齢者が集う通信教育課程がある東京・千代田区神田一橋中学校。人生の終盤を迎えてなお、人はなぜ学ぼうとするのか、その意味を求めて5年にわたり彼らの学生生活を記録した。
平成29年度 文化庁映画賞受賞記念上映会
日時:10月28日(土)
会場:神楽座
   東京都千代田区富士見2-13-12 KADOKAWA富士見ビル1階
入場無料。事前申し込み制。先着順。
申し込み・上映会等の詳細は公式HP
http://bunka-cho-filmweek.jp/
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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