気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム
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開局55年の広島テレビが8月6日から「平和ドキュメンタリー」を世界へ配信

 今年9月に開局55周年を迎える広島テレビは、8月6日の広島平和記念日に平和を願うドキュメンタリー番組の英語版(英語の字幕)を、同局のWEB上において無料で配信します。また、これをアメリカのニューヨーク・タイムズ(アメリカ日付で8月5日)に広告を掲載して告知し、世界で初めて原子爆弾が投下された広島のテレビメディアとして平和への願いを世界に向けて発信すると発表しました。世界の恒久平和の実現を国内外に呼びかける都市・広島のメディアとして、「被爆の惨状を伝え、復興を記録し、平和を希求する責任を担っていると、考え、行動し続けていく」と表明、これを開局55年の年の平和への取り組みのシンボルと位置付けています。広島の局だからこその試みですが、その果敢な挑戦、行動力は実はすごいことだと思います。

 今回、配信されるのは劇場公開した「いしぶみ」など同局が制作した6つのコンテンツ。「被爆米兵」(2016年放送)は、広島で被爆死したアメリカ兵捕虜12人の存在を通して戦争の不条理や国境を越えた人間愛を伝えるドキュメンタリーです。当コーナーでも紹介しましたが、第12回日本放送文化大賞準グランプリを受賞しています。昨年5月に広島を訪問したオバマ前大統領との抱擁シーンで一躍注目を浴びた、生涯をかけて被爆米兵の調査を続けている森重昭さんが、その遺族を広島に迎える様子なども描かれています。今回の世界配信に最もふさわしい、象徴的な番組だと思います。ここに描かれている真実や人間ドラマを、より多くのアメリカ人に見てもらいたいと願います。

 「碑(いしぶみ)」(1969年放送)は、原爆で命を奪われた旧制広島二中の1年生たちの言葉をモチーフに描いた番組です。さらにこれを是枝裕和監督の演出でリメイクした戦後70周年特別番組「いしぶみ」(2015年放送)を再編集した劇場公開版(同年公開)も配信されます。広島二中の生徒たちが最期に残した言葉や遺族たちの手記を、オリジナルの「碑(いしぶみ)」では故杉村春子さん、「いしぶみ」は綾瀬はるかさんがそれぞれ朗読しています。共に広島出身の女優が静かに読み語る姿が圧倒的に強く印象に残る、広島テレビのいわば一番の代表作といっても過言ではありません。少年たちが残した生きた証、メッセージが、世界中の多くの人に届くことを願ってやみません。

 「家路」(1997年放送)は、広島県出身で広島名誉市民でもある日本画家・平山郁夫の生涯を描いたドキュメンタリー。15歳の時の被爆体験が、その後の彼の人生にどう影響していったのかを掘り下げています。ほか、路面電車に乗務していた女学生たちのその後を描いた「チンチン電車と女学生~2003・夏・ヒロシマ~」(2003年放送)、世界に向けて平和のメッセージを送る地元学生の取り組みを紹介する「消えた街並みからのメッセージ~CGでよみがえる8月6日~(2005年放送)がラインナップされています。いずれも多方から高く評価され、広島発の平和の尊さをそれぞれの手法で伝えている作品です。

 上述した森重昭さんの活動などの取材を続け、「被爆米兵」ではディレクターを務めた加藤紗千子記者は「被爆地の放送局として、使命感を持って製作してきたドキュメンタリーですが、なかなか県外の方に見てもらえる機会がなく歯がゆい思いをしてきました。WEB配信をきっかけに世界中の人が核兵器の恐ろしさや平和のありがたさを考えるきっかけになればうれしいです」とこの世界配信への思いを寄せくれました。1つの放送局の草の根的な小さな取り組みで、世界を少しでも動かすことが出来ればこんなに素晴らしいことはありません。2017年8月6日は歴史を変える日になるかもしれません。今回の広島テレビの試みを、是非一人でも多くの人に周知、拡散してもらえると私もうれしいです。

配信番組リスト
「被爆米兵」
(U. S. POWS and the A-bomb)

(C)HTV

■2016年4月30日放送
*捕虜収容所がないことで、原爆投下の目標にされた広島。しかし、被爆死したアメリカ兵捕虜は12人いると言われ、そこには戦争や核兵器の不条理さを表す真実があった。米兵の遺族が今も抱く複雑な感情や国境を越えた人間愛を被爆米兵の存在を通して伝える。第12回日本放送文化大賞 準グランプリ受賞。広島テレビでは、8月6日(日)に午前10:00~10:55でも放送(※ローカル)。
「いしぶみ」
(Carved in Stone)

(C)HTV


■2015年8月公開
*2015年8月、全国放送された戦後70周年特別番組を再編集した劇場公開版。8月6日、原爆で命を奪われた旧制広島二中の1年生321人。彼らが最後に残した言葉を、広島出身の女優・綾瀬はるかが読み語る。監督/是枝裕和 出演/綾瀬はるか 池上彰(語りは英語版に吹き替え)
「碑(いしぶみ)」
(Ishibumi)

(C)HTV


■1969年10月放送
*8月6日、広島市内で建物疎開に動員されていた27校の中学1、2年生のほとんどが原爆で亡くなった。その中の1校、平和公園の本川端に慰霊碑がある旧制広島二中1年生のドキュメンタリー。杉村春子が語り部として、彼らがたどった道、残した言葉を追跡しながら、モノローグで物語が展開する。第2回テレビ大賞優秀番組賞(弊社TVガイド主催)。
「家路」
(Homeward Bound)

(C)HTV

■1977年11月放送
*広島県瀬戸田町の生口島出身の日本画家・平山郁夫は、15歳の時に広島で被爆。白血病で倒れて以来、被爆を強く意識するようになる。院展初入選作「家路」は、ふるさとへの道。ふるさとへの思いに支えられて生きる平山の人生を辿り、芸術の心、親子の情愛、原爆への怒りなど、精神的風土を発掘する。
「チンチン電車と女学生 〜2003・夏・ヒロシマ〜」
(Streetcars and School Girls)

(C)HTV

■2003年8月放送
*原爆投下時、広島の街を走る路面電車に乗務していたのは14歳から17歳の家政女学校に通いながら電車の運転を手伝っていた女学生たち。生徒の7割が運転士や車掌として乗務していたが、原爆で30人が死亡した。生き延びた少女たちのその後を追い、58年間埋もれてきた秘話に光りを当てた。語りは吉永小百合。
「消えた街並みからのメッセージ 〜CGでよみがえる8月6日〜」
(A Message from the Vanished Streets of Hiroshima)

(C)HTV

■2005年12月放送
*被爆60年を迎えた広島で、被爆直下の町並みをCGで復元しようという試みが進む。地元大学の学生が元住民から聞き取りをすることで、世代を超えた被爆体験の継承ともなっている。世界に向けて平和のメッセージを送る取り組みを紹介していく。
公式web:「Message from Hiroshima」
※「いしぶみ」は9月5日まで、他の5作品は来年3月31日までの配信予定。
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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