気まぐれドキュメンタリー散歩

コラム
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制作者自らが選ぶATP賞、グランプリは「BS1スペシャル 原爆救護 ~被爆した兵士の歳月~」

 テレビ番組の作り手は、テレビ局に勤める社員ばかりとは限りません。毎日数えきれないほどの番組を生まれ放送されていますが、それらのたくさんのコンテンツ制作を製作会社のスタッフたちが共に支えています。1984年に創設されたATP賞は、一般社団法人全日本テレビ番組製作者連盟が主催し、テレビ番組の作り手である制作者自らが審査し、優れた番組を選ぶ日本で唯一の賞です。今年で第33回を数えるATP賞授賞式が先日都内で開催され、ドラマ部門、ドキュメンタリー部門、情報・バラエティー部門の3つのジャンルで最優秀賞、優秀賞など各賞の表彰があり、さらにこれらの中から選ばれるグランプリが発表されました。そして、そのグランプリをドキュメンタリー部門最優秀番組の「BS1スペシャル 原爆救護 ~被爆した兵士の歳月~」(製作/テムジン 放送/NHK BS1)が受賞しました。

 今回は152本の応募作品の中から119社の投票によって選考が行われ、「今、求められるプロの力」を審査のポイントにしたと報告されました。映像があふれプロでもアマチュアでも全世界へコンテンツを即時に発信できる時代になったなか、製作会社にとって、企画、演出、編集、仕上げなどすべてにおいて真のプロの力による上質な映像が求められているという自負が表れています。その結果、今回の3部門の最優秀賞は、いずれもが“オーソドックスの力”、いわば新しいオーソドックスの誕生を感じる番組が選ばれたという説明がありました。奇をてらった企画などではなく、本来の魅力が詰まった番組作りという原点が今こそ見直される時代なのだと思います。

 そんなプロの制作者によるプロの審査の頂点に立った「BS1スペシャル 原爆救護 ――」(2016年7月放送)は、原爆投下直後に救護に向かった少年特攻兵たちを取材対象とし、戦後71年に彼らの証言から“ヒロシマ”を描くという着眼点が見事であると高く評価されました。当時10代の少年兵に刻まれた証言や、記憶の断片の脚色することなく淡々と積み上げていくことで、生き残った者の負い目や被爆者としての不安や差別が切々と伝えている番組です。講評には、戦争に加担した葛藤も感じる「視野の広い秀作」であるとの称賛もありました。番組制作の中心となった小柳ちひろディレクター(テムジン)は受賞に際し、次のように語っています。「取材したある方が、自分たちは肩身の狭い被爆者だとおっしゃっていました。広島市民のことを思うと自分たちが被爆者と発言することがおこがましいと言っています。本当に光の当たらない方々たちだと思います。“オーソドックス”という言葉を頂きましたが、取材した方々たちの言葉を演出することなく伝えることに徹した番組に賞をいただけてうれしいです」。小柳ディレクターは“ヒロシマ”を救護の視点で構成する企画を出し、取材の過程で今も“隠れ被爆者”のまま生きている元兵士が多いことに強い衝撃を受けたと明かしています。「誰かが目を留めなければ、埋もれてしまう歴史は無数にある」と指摘していますが、救護にかけつけた兵士たちが入市被爆に遭い、その後ずっと苦しんでいたという事実は、正直この番組を観るまでは思いもおよびませんでした。この番組から、伝えるべきことを伝えていくというドキュメンタリーの原点をあらためて教えられた気がします。小柳ディレクターは、これまでにも女性の視点で戦争の時代を描くドキュメンタリーを多数手がけ、「放送ウーマン賞2015」を受賞するなど既に数々の賞を手にしています。今やドキュメタリー制作の第一人者と言ってよいでしょう。「メディアが本当に多様化して発達していくなか、声を上げられない人が確実に存在します。これからもそういう人たちの声を届けていきたいと思います」と決意表明して挨拶を締めましたが、今後どんな番組を作っていくのか気になる制作者の1人になりました。

 なお、この授賞式の模様は、7月31日(月)に、NHK BSプレミアムで放送されます。

[第33回ATP賞テレビグランプリ]
◇グランプリ
ドキュメンタリー部門最優秀賞
「BS1スペシャル 原爆救護 ~被爆した兵士の歳月~」
テムジン/NHK BS1
2016年7月24日放送
■語り/光岡湧太郎 取材/杠駿平 中村真琴 デイレクター/小柳ちひろ 松井至 制作統括/太田宏一 伊藤純 矢島良彰

*原爆投下直後、広島の中心部に入り市民救助を命じられた10代の若き兵士たちがいた。言葉に尽くせないほど悲惨な現場に向かい、負傷者を救い出し無数の遺体を葬った。戦後、放射能の影響が疑われる体調不良に苦しむが、差別や偏見を恐れて口を閉ざしたてきた・・・。知られざる“埋もれた被爆者”の苦難の戦後を描く。
<ドキュメンタリー部門受賞作品一覧>
◇最優秀賞 同上
「BS1スペシャル 原爆救護 ~被爆した兵士の歳月~」
テムジン/NHK BS1

◇優秀賞
「NHK BS1スペシャル チャイナ・ブルー ある企業家の記録」
2016年11月6日放送

「ETV特集 武器ではなく命の水を 医師・中村哲とアフガニスタン」
日本電波ニュース社/NHK Eテレ
2016年9月10日放送

「リアルサウンドが伝える世界 殺人者34万人の帰郷 ルワンダ虐殺22年目の“声”」
クリエイティブネクサス/NHK BS1
2017年1月19日放送

◇奨励賞
「ブレイブ 勇敢なる者 えん罪弁護士」
NHKエデュケーショナル/NHK 総合
2016年11月28日放送

「世界はTokyo をめざす ひとりのアスリートとして泳ぎたい ~シリア難民 男子競泳~」
ドキュメンタリージャパン/NHK BS1
2016年12月18日放送

「ノンフィクションW 写真家レスリー・キーと1万人のカミング・アウト」
テムジン/WOWOW
2017年2月25日放送

※ドキュメンタリー部門以外の受賞番組・受賞者名は下記参照
公式HP第33回 ATP賞テレビグランプリ
http://www.atp.or.jp/awards/atpaward/award_033.php
「ATP賞授賞式2017」
NHK BSプレミアム
7月31日 月曜 午後5:00~5:59
(C)NHK

*テレビの製作会社の人々が自ら審査し優れた番組を選ぶATP賞。ドキュメンタリー、ドラマ、情報・バラエティーからなる各部門の受賞作品のダイジェストと7月14日に行われた授賞式の模様をお届けする。名誉ある賞を手にした制作者の感激の声を伝えていく。司会は高橋美鈴アナウンサー(NHK)と山本雪乃アナウンサー(テレビ朝日)
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株式会社東京ニュース通信社 コンテンツ事業局担当
1988年入社。30代から放送局担当記者に転身、後にTVガイド編集部。同副編集長、デジタルTVガイド編集長ほか番組表・解説記事製作の部門長、西日本メディアセンター編集部長などを歴任。全国各地で放送されている質の高いドキュメンタリー番組と、精魂こめて地道に番組作りに勤しむ制作者の姿に注目してきた。人生の糧となるドキュメンタリーの名作・力作の存在を、より多くの視聴者知らせるべく、日々ネタ探しの歩みを続ける。

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